(実際の招集通知にどのように記載されているのか?) このように、定時株主総会の招集通知は、株主に対して株主総会の開催を知らせ、株主総会への参加を促すものですが、(プロローグ)で述べたように、私の手元に届いた招集通知には、「当日のご来場をお控えください」という記載がなされているのです。 そこで、今年の各社のHPの「IR情報」に掲載されている招集通知を見てみると、そのような記載のない会社もありますが、多くの会社で似たような記載がみられます。 例えば、「新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から」という理由は共通ですが、これに続けて、「当日の会場へのご来場は、可能な限りお控えください」と記載するもの【文例1】が典型的なものです。 大勢の株主が来場すると、株主同士の感染を予防するための密閉、密集、密接の3密を避けること自体、かなり難しくなることが想定されるからでしょう。株主総会当日は、例年でも、多数の株主が参集するので、警備会社に警備を依頼することはもとよりですが、受付での株主・株式数の確認や会場への誘導を行うために従業員を配置しなければなりませんし、会場内での秩序維持や質問などにおける円滑な進行を補助するための従業員の配置も必要になります。今年は、そのような総会スタッフの感染防止を図るための対策も簡単ではないでしょう。 2020.04.16 2020年の株主総会対策~コロナウイルス感染症対策とバーチャル株主総会~ 2020.03.18 高まる人権リスクへの対策について〜今後を見据え取り組むべきこととは〜(仮題) 2020.02.25 2020年6月2日 任天堂[7974]の開示資料「2020年定時株主総会招集通知」 が閲覧できます。資料はpdfでダウンロードできます 株主総会後、報道各社の取材に応じた梁副会長は「提案が可決されなかったことは残念だが、超長期的な株主として会社の将来性に期待している。 象印には経営資源を新たな技術の研究開発に投資することを強く望む」と話していた。 (株主の多くが入場を拒否される株主総会を「株主総会」といえるのか) この【文例4】では、来場する株主が50名を超える場合には入場を断ると言い切っている点に問題があるのですが、もともと会社の株主数が少なく、これまでの定時株主総会に参加した株主も50名を超えない程度であるならば、50名程度しか入れない会場でも、あながち不当なものとはいえません。 しかし、この会社は、誰もが知っている日本でも有数の会社であり、発行済株式数は10数億株に上り、株主数は40万人を超えています。もちろん、定時株主総会に40万人を超える全ての株主が来場することはありえませんが、それでも、50席しか用意しないということでいいのでしょうか。 まったくの単純計算ですが、仮に、40万人の株主に対して50人しか会場に入場させないとすると、入場できる株主は、8000人に対して1人ということになりますから、株主が株主総会の会場に入場できる可能性は、0.0125%にすぎません。 何と、99.9%を超える株主が入場できない前提で定時株主総会が開催されるわけです。仮にそのとおりであれば、そのような定時株主総会は、できるだけ多くの株主に参加を促し、株主の意思が反映されることを前提として開催されるべき株主総会としての実質を欠いたものであり、会社法が予定している株主総会ということはできないでしょう。 もちろん、実際には40万人もの株主が株主総会の会場に来場する可能性はありませんから、このような抽象的な数字だけで判断することは適切ではありません。しかし、この会社では、過去の株主総会に数千人の株主が押しかけたことがありますし、最近でも1千人近くの株主が来場しているようですから、50席では到底対応できないことは明らかです。 そこで、例えば、定時株主総会の当日に1千人の株主が来場したのに、会社が50人分しか席を用意しておらず、あとの950人は入場を拒否された場合を考えてみましょう。 普通は、事前に法人株主などから書面による議決権の行使を得ていたり、来場しない株主から委任状が提出されていたりしており、議決権レベルでは定足数(309条1項)を満たすとしても、実際に来場した株主の95%を株主総会に参加させないのですから、法的な評価としては、会社法が予定している定時株主総会が開かれたものと認めることはできないでしょう。 会社法は、株主総会の決議に問題があった場合の争い方として、三つの方法を定めています。(1)株主総会決議の不存在確認の訴え(830条1項)、(2)株主総会決議の無効確認の訴え(830条2項)、(3)株主総会決議の取消の訴え(831条)です。 googletag.cmd.push(function() { googletag.display('div-gpt-ad-Rec_Article'); }); 生活家電大手の象印マホービン(大阪市)は19日、同市内で定時株主総会を開き、中国の生活家電大手「ギャランツ」首脳の投資ファンドが筆頭株主として提案していた、日銀出身で弁護士の長野聡氏を社外取締役に選任する議案 … (会社の本音は個人株主に来場してほしいわけではない?) 会社は、本当は、これまでも「当日は会場にお越しにならないでください」と書きたかったのかもしれません。株主総会の実情は、本講座の第2回『株主総会の「お土産」と株主優待』でも触れたとおりで、個人株主は、頭数は多いのですが、株式の保有比率は少なく、保有比率では法人株主が3分の2を超えています。 仮に、株主総会に出席した個人株主が全員賛成しても、法人株主が反対すれば、その議案は否決され、逆に、個人株主が全員反対しても、法人株主が賛成すれば、その議案は可決されてしまいます。実際には、有力な法人株主に対する会社の事前の説明や根回しによって株主総会の前に大勢が決しており、個人株主の賛否はほとんど影響力がないのです。しかも、個人株主は、受付や会場への誘導などその対応に手間も人手もかかる上、株主総会の席では、質問なのかクレームなのかわからないような発言をするなどしますので、会社の本音をいえば、決議の承認に必要な法人株主さえ参加してくれれば十分で、個人の一般株主が多数参集することは歓迎していないのです。 ただ、会社法の建前として、所有する株式数の違いはあっても、株主総会における株主としての発言の機会などは、平等に保障されるべきことになっていますし(109条,314条)、株主総会は、株主の参加があって初めて成り立つものですから、直接的に、株主総会に来ないでください(参加しないでください)と書いてしまうと、会社が株主総会の意味を否定してしまうことになるので、適切ではないのです。 先の【文例1】は、そのようなことを考慮して、「可能な限り」という文言を入れることで、少しでも印象を和らげようと配慮していることがうかがわれます。 また、よりソフトな表現として、「当日の会場へのご来場は見合わせていただくこともご検討いただくようお願い申し上げます。」と記載しているもの【文例2】もあります。会場に来ないでくださいというのが本音であることは明らかですが、文面上は、来場を見合わせることも検討するようお願いしているだけで、会場に来ないでくださいとはお願いしていません。持って回った言い方ですし、スマートさには欠けるのですが、この会社の株主総会担当者や決済をした担当役員が、株主総会なのに株主に対して、来ないでくださいとはいえないと考えて、苦心して表現を工夫したことがうかがわれます。